例会案内

 7月例会御案内

例会案内


二〇二五年度(令和七年度)上代文学会 七月例会 ご案内
日  時 2025年(令和7年)7月12日(土)午後2時~午後3時15分
会  場 Zoomによるオンライン開催
参加を希望される会員の方は、6月中旬頃郵送の案内状に記載の参加申し込み方法をご覧の上、事前にお申し込みください。開催前々日までにURL等、参加に必要な情報を返信致します。遠方の会員の皆様もぜひご参加ください。
研究発表 『日本書紀』「板挟みになる女」二題 ―狭穂姫と衣通郎姫―
○研究発表終了後、常任理事会をオンラインで開催します。
発表要旨
『日本書紀』「板挟みになる女」二題 ―狭穂姫と衣通郎姫―

 『本発表では、『日本書紀』の狭穂姫と衣通郎姫の人物造型について、それぞれ別の角度から検討する。両者の間には、天皇である夫と肉親との間で板挟みになり、苦悩するという共通点がある。特に、狭穂姫の場合、『古事記』と比較して、その苦悩を描くことに重点があるように見受けられ、こうした「板挟みになる女」はひとつの類型となっているように思われる。
 狭穂姫について、検討の端緒としたいのは、狭穂彦が狭穂姫に謀反への加担を求める発言中にある「夫以色事人、色衰寵緩」という一節である。『書紀集解』以来、『史記』呂不韋伝が類句として指摘されてきたが、『漢書』外戚伝上により一致度の高い文があり、さらにその前後にはほかにも垂仁紀と類似する語句がある。直接の影響関係を認めうるかは断定しかねるが、このように漢籍に出典を持つような表現が、謀反人の言葉に用いられていることの意味を考えたい。漢籍らしい文句を用いながら謀反の意志を長々と語ることで、狭穂彦の決心に重みが生じ、兄と夫の間で板挟みになる狭穂姫像が強調されているのである。
 衣通郎姫について検討したいのは、衣通郎姫の発言「因妾以恒恨陛下。亦為妾苦。」(允恭八年春二月条)の訓読、すなわち解釈である。大系では〈妾に因りて恒に陛下を恨みたまふ。亦妾が為に苦びたまふ。〉と訓読しており、諸本・諸注釈ともに同様の解釈をしている。しかし、〈妾に因りて以て恒に陛下を恨みたまふ、亦た妾が苦しびと為る〉と訓むべきではないか。従来の訓では、「苦」の主体は皇后であったが、〈妾が苦しびと為る〉と訓めば、心を痛めているのは衣通郎姫自身ということになる。改訓の根拠として、まず允恭紀の属するβ群中に類似する構文の見いだせることが挙げられるが、そのように読んだ方が天皇と肉親の間で板挟みになり心を痛める女という衣通郎姫の造型がより明確になる。
 なぜこのような「板挟みになる女」が描かれるのか。それに近い状況に置かれる人物が少なからず実在したという事情もあろうが、天皇だけでなく肉親に対する愛情を持つことが、后妃の資質として重視されているように思われる。忠が孝の延長線上にあるように、肉親に対する愛情は、天皇や人民に対する愛情にも通ずるものがあるという論理ではなかろうか。